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2026.07.13
相川スリーエフ
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「ラジアー理論」でわかる、賃金と能力の関係。 そして、社員と企業はどうすればよいのか。
最近、大企業による早期退職や希望退職のニュースを頻繁に目にします。
しかも、経営危機に陥った企業だけではありません。利益を出している企業まで、将来の事業転換や人員構成の見直しを理由に、大規模な人員削減を行っています。
東京商工リサーチによると、2025年度に早期・希望退職の募集が判明した上場企業は46社、募集人数は2万人を超えました。実施企業の約7割が直近の決算で黒字だったとされています。
会社が赤字だから人を減らすのではなく、 黒字のうちに人員構成を変える。 いわゆる「黒字リストラ」が広がっているのです。
その対象になりやすいのが、長年会社に勤めてきた40代・50代の社員です。
「真面目に働いてきたのに、なぜ自分が対象になるのか」
「会社に貢献してきたベテランを辞めさせるのは、おかしいのではないか」
そう感じるのは当然です。
しかし、この現象は、労働経済学の世界では何十年も前から説明されていました。
この考え方を示したのが、アメリカの経済学者、エドワード・P・ラジアー氏です。
ラジアー氏は、スタンフォード大学で教鞭を執り、労働経済学や人事経済学の発展に大きな影響を与えた研究者です。
1979年に発表した論文では、若い時期の賃金をその時点の生産性より低く抑え、年齢を重ねた後に生産性より高い賃金を支払う仕組みと、定年制度の関係を説明しました。
日本では、この考え方が一般に、
ラジアー理論 または 後払い賃金理論
などと呼ばれています。
「ラジアーの法則」という表現も見かけますが、厳密には自然科学の法則ではなく、賃金制度を説明する経済理論です。
賃金と生産性の差から、40代・50代のリストラが起こる構造を表したイメージ図
グラフの横軸は年齢、縦軸は賃金と生産性です。
ここでいう生産性とは、単純な体力や作業量だけではありません。
売上、利益、技術、判断力、管理能力、人材育成などを含め、その社員が会社に生み出す価値全体を意味します。
新入社員は、入社したその日から一人前に働けるわけではありません。
営業なら、先輩の後ろについて仕事を覚えるところから始まります。
施工管理なら、現場で安全管理や工程管理を学びます。
設計なら、図面の描き方や法規、納まりを覚えなければなりません。
会社は給与を払い、教育する人を付け、失敗も経験させながら社員を育てます。教育費や先輩社員の時間まで含めれば、会社にとっては大きな先行投資です。
一方、ラジアー理論では、若い時期の社員は、その時点で生み出している価値より低い賃金で働く期間があると考えます。
これは矛盾しているように見えますが、見ている範囲が違います。
会社は採用・教育・設備・失敗の負担を含めて先行投資をする。社員は将来の昇給や安定を期待して、若い時期に努力する。
会社と社員の双方が、将来に向けて投資しているのです。
経験を積み、仕事を覚えると、生産性は大きく上がります。
営業なら、自分で顧客を開拓し、売上をつくれるようになります。
技術者なら、難しい仕事を任せられるようになります。
施工管理者なら、現場を一人でまとめられるようになります。
この時期には、社員が受け取る給与以上の価値を会社に生み出すことがあります。
会社は、この期間に人材育成へ投じた費用を回収します。
問題は、その先です。
人の能力が突然なくなるわけではありません。ベテランには、若手にはない経験、知識、判断力があります。
しかし、同じ仕事を一人で続けている限り、一人の人間が生み出せる売上や処理できる仕事量には、どうしても限界があります。
一方、年功型の会社では、勤続年数や年齢に応じて給与が上がり続けます。
すると、ある時点で、
賃金 > 会社に生み出す価値
という状態が生まれます。
人件費の高い社員が何千人、何万人と在籍する大企業では、この差が会社全体の大きな固定費になります。
そこで、希望退職、早期退職、役職定年、配置転換などが行われるのです。
もちろん、すべてのリストラをラジアー理論だけで説明することはできません。
事業の撤退、海外競争、技術革新、デジタル化、組織の重複など、理由は複数あります。
しかし、年齢とともに上がる賃金と、一人の社員が生み出せる価値との間に差が生まれることは、中高年社員が対象になりやすい大きな要因の一つです。
営業職を例にすると、この問題はとてもわかりやすくなります。
新入社員の時は見習いです。
先輩の鞄持ちをしながら、商品知識、話し方、見積り、商談、契約、顧客対応を学びます。
まだ十分に売れなくても、完全歩合制やフルコミッションでない限り、会社から一定の給与が支払われます。
やがて営業のノウハウを習得し、商品が売れ始めます。
売れるようになると自信が付き、会社からの評価も高まり、給与も上がります。
しかし、どれほど優秀な営業マンでも、一人で営業できる時間には限りがあります。
一日に訪問できる件数にも、担当できる顧客数にも限界があります。
つまり、生涯プレイヤーのままであれば、いつか売上の成長は止まります。
それでも給与だけが上がり続ければ、いずれ会社に生み出す価値と給与が逆転する可能性があります。
では、優秀な営業マンはどうすればよいのでしょうか。
優秀な営業マンには、次の段階があります。
マネジメントを学び、自分と同じように売れる営業マンを育てることです。
自分の営業方法を言葉にする。
後輩に教える。
商談に同行する。
失敗の理由を一緒に考える。
営業の仕組みをつくる。
もし、自分と同じように成果を出せる営業マンを10人育てられたら、その人が会社に与える価値は、一人で営業していた時とは比較になりません。
その人は、課長、部長、執行役員へと役割を広げ、営業部だけでなく、ほかの部署や会社全体を育てる立場へ進むことができます。
「自分が成果を出す」から、 「人を通じて、より大きな成果を生み出す」へ。
これが、マネジメントの価値です。
この考え方は営業だけに限りません。
設計、施工管理、製造、経理、総務、事務など、ほぼすべての職種に当てはまります。
まず、プレイヤーとして自分の仕事を覚える。
次に、後輩を育てる。
さらに、仕事の仕組みをつくる。
最後は、組織全体を動かす。
ただし、全員が同じ形の管理職を目指す必要はありません。
高度な専門技術を磨き、誰にも代わることのできないスペシャリストになる道もあります。
新しい商品やサービスを開発する道もあります。
新規事業を立ち上げ、会社の新しい収益源をつくる道もあります。
大切なのは、同じ仕事を同じ方法で続けるだけではなく、年齢とともに会社へ提供する価値を広げていくことです。
プレイヤーとしての限界を、 マネジメント、専門性、新規事業によって超えていく。
プロスポーツの世界は、会社員よりもさらに残酷です。
サッカー選手も、野球選手も、ある日突然、戦力外を告げられることがあります。
昨日まで試合に出ていた選手が、一瞬にして職を失うこともあります。
体力や瞬発力を必要とする競技では、どれほど努力しても、現役選手としての能力にはいつか限界が来ます。
そのため、スポーツ選手は現役時代から第二の人生を考えます。
監督になる人。
コーチになる人。
解説者になる人。
経営者になる人。
現役時代に得た経験や知識を、次の価値へ変えていくのです。
会社員も本質的には同じです。
会社に勤めていれば、いつまでも同じ仕事と同じ給与が保証されるわけではありません。
自分の仕事にも、いつか転換期が来ると考えておく必要があります。
会社に期待し過ぎてはいけません。
会社には社員を守る責任がありますが、同時に、利益を出し、雇用を維持し、事業を継続する責任もあります。
だからこそ、社員も自分自身の価値を高め続けなければなりません。
資格を取る。
技術を身に付ける。
営業力を高める。
AIやデジタル技術を学ぶ。
人を育てる。
組織を動かす。
新しい事業を考える。
会社が変わっても通用する人材になることが、自分自身を守る最大の方法です。
「リストラされない人」ではなく、 「どの会社からも必要とされる人」を目指す。
一方で、社員だけに努力を求めればよいわけではありません。
企業にも、人を採用した以上、その人の能力を伸ばす責任があります。
仕事を教える。
挑戦する機会を与える。
失敗から学ばせる。
プレイヤーから管理職へ進むための教育をする。
専門職として成長する道も用意する。
能力が発揮できない場合には、その人を切り捨てる前に、別の仕事や役割が合わないかを考える。
人は、置かれる場所によって大きく変わります。
営業では力を発揮できなかった人が、積算や設計で才能を発揮することもあります。
管理職には向かなかった人が、高度な専門職として大きな価値を生み出すこともあります。
企業が考えるべきなのは、単純に「できる人」「できない人」と分けることではありません。
その社員が、どの場所なら力を発揮できるのかを考えることです。
相川スリーエフは、年齢や勤続年数だけで給与を決める会社ではありません。
新卒で入社した社員には、まず会社が先行投資をします。
給与を払い、教育を行い、先輩社員が時間を使い、仕事を覚えてもらいます。
そして、その社員が成長し、優秀な人材になったのであれば、会社が投資分を十分に回収するまで低い給与に据え置くのではなく、能力と貢献に応じて早い段階から給与を上げます。
ここが、典型的な大企業の年功型賃金との大きな違いです。
年齢を重ねるまで昇給を待たせるのではありません。
若くても、能力があり、大きな責任を負い、会社へ価値を生み出している社員には、それにふさわしい報酬を支払うべきだと考えています。
ただし、ラジアー理論が示すように、一人のプレイヤーとして働き続ける限り、いつか生産性の伸びには限界が来ます。
だから私は、社員に常に話しています。
今の仕事ができるようになったら、次は部下を育てることを考えてほしい。
あるいは、新しい事業を立ち上げるくらいの発想を持ってほしい。
自分一人で成果を出す段階から、人を育て、組織を育て、会社の新しい未来をつくる段階へ進む。
その責任と成果に対して報酬が上がっていく。
言われてみれば当然のことかもしれませんが、それが本来の報酬のあり方ではないでしょうか。
相川スリーエフは、人を育てます。
そして、私たちには、人を育てる自信があります。
もちろん、本人が一生懸命努力しても、思うように能力が伸びないこともあります。
その時に、すぐに「この人は駄目だ」と決めることはしません。
営業が合わないのかもしれない。
設計や積算、製造、管理の仕事なら力を発揮できるかもしれない。
本人とじっくり話し、その人にとっての適材適所がどこなのかを一緒に考えます。
社員は会社のために存在する部品ではありません。
一人ひとりに人生があり、得意なことがあり、可能性があります。
相川スリーエフでは、社員全員が主役です。 私を含めた取締役は、脇役で構いません。
経営者や取締役の役割は、自分が目立つことではありません。
社員が成長し、能力を発揮し、安心して挑戦できる舞台をつくることです。
社員一人ひとりが主役となり、年齢を重ねるほど会社から必要とされる。
そのような会社を、相川スリーエフは目指しています。
ラジアー理論は、「年齢を重ねた社員には価値がない」という理論ではありません。
若い時期と高齢期の賃金を生涯全体で調整し、社員の努力を引き出す仕組みを説明した理論です。
しかし、その仕組みに頼り、年齢だけで給与を上げ続ければ、いつか賃金と生産性の間に大きな差が生まれます。
その差を埋めるために必要なのは、社員を切り捨てることだけではありません。
社員は、役割を変えながら成長する。
企業は、その成長を支え、能力に合った仕事と報酬を用意する。
社員と企業の双方が、その責任を果たすことが大切です。
年齢を重ねることが、リスクになる会社ではなく、 年齢を重ねるほど、経験が価値になる会社へ。
株式会社相川スリーエフ 代表取締役 相川 一臣
※本記事は、賃金制度とキャリア形成について一般向けに分かりやすく説明したものです。個々の企業が早期退職や人員削減を実施する理由は、事業再編、経営状況、技術革新などにより異なります。
参考:Edward P. Lazear「Why Is There Mandatory Retirement?」(1979年)、東京商工リサーチ「2025年度の早期・希望退職募集」
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